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売買契約上の債務の履行を求める訴訟にかかる弁護士報酬を損害賠償として請求することを認めなかった判例

毎年4月には、去年の重要な判例を集めた重要判例解説が発売されます。

その中に、最高裁第三小法廷令和3年1月22日判決(判例タイムズ1487号157ページ)があります。

1 事案の概要

Y(被告)は、A社との間でA所有土地を9200万円で購入する契約をし、うち500万円を支払った。

残金8700万円は、Aが土地上の建物を収去し、根抵当権を消滅させ、測量をしてYに引き渡すのと引き換えに支払うことになっていた。

しかし、Aが事業を停止したことから、Yは弁護士Bを雇って、Bが、土地の所有権移転登記手続訴訟、建物収去の強制執行、根抵当権の抹消、測量等を実施した。

Aの債権者Xが、土地売買代金債権を差し押さえてYに支払いを求めて訴訟提起した。

Yは、Aに対する債務不履行による損害賠償請求権と相殺しようとし、弁護士報酬972万8600円を損害賠償請求権に含めた。

2 判旨

結論:土地の売買契約の買主は、その債務履行を求めるための訴訟提起・追行・又は保全命令もしくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、その        弁護士報酬を債務不履行の損害賠償として請求することはできない。

理由:①契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為の損害賠償請求と異なり、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。

②契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約内容や契約するかどうかを決定できる。

③土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき義務は、同契約で一義的に確定し、契約成立という客観的事実によって基礎づけられる。

3 解説

過去の交通事故の損害賠償請求や、使用者の安全配慮義務違反について、弁護士報酬を損害賠償請求の損害額に含めることが認められています。

交通事故や使用者の安全配慮義務違反は、突発的に相手から損害を受けるものです。

一方、債務不履行の場合は、契約するかどうかは当事者の自由ですし(理由②)、受けた損害を回復する場面でもない(理由①)。

また、土地の売買契約なら、書面も作ってあり、売主が土地の引渡しや所有権移転登記をする義務があるか争いが生じることは通常ない(理由③)。

そこで、弁護士に頼まなくても土地の引き渡しや所有権移転登記を受けられた可能性も十分あると考えられ、交通事故や使用者の安全配慮義務違反の場面とは異なると判断され

たようです。

契約内容が複雑な場合や、契約書が存在しない又は不十分な内容の場合はどうなのか等、検討の余地が広がっています。

 

相続税の生前対策が否定された事例

1 判決の事案の内容

不動産を使った相続税の生前対策にもかかわらず、多額の相続税が課された最高裁判決が出ています。

最高裁令和4年4月19日判決の事案は、簡単にいうと以下のとおりです。

・被相続人Aは、平成21年に信託銀行や共同相続人の1人から合計約12億円を借り入れて、8億3700万円で甲不動産を、5億5000万円で乙不動産を購入した。

・平成24年にAが94歳で亡くなり、甲不動産を約2億円、乙不動産を約1億3300万円と評価して相続税申告した結果、相続税額が0円になった。

・遺言により乙不動産を取得した相続人(上告人)は、平成25年に乙不動産を5億1500万円で売却できた。

・平成28年、税務署は甲不動産を7億5400万円、乙不動産を5億1900万円と鑑定し、相続税2億4000万円を課税した。

2 判決内容

被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れされるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行した。本件各不動産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過しがたい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきである。

したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した額を上回る各鑑定評価額により評価したことは、適法である。

3 評価

相続税申告の際に、土地は路線価に従って評価し、建物は固定資産税評価額とするという、相続税実務どおりの申告をしても、実際の鑑定価格が路線価や固定資産税評価額より、大幅に高い場合は、鑑定価格(時価)に従って課税される可能性があるというものです。

不動産を借り入れにより購入して、財産を減らすとともに、路線価が時価を下回ることが多いという相続税の経験則を生かした生前対策も、あまりに露骨であると否定されることを示しています。

相続税対策以外に不動産購入の理由付けができるかどうかや、路線価と時価のズレがどの程度あるか等によって、事情は変わると思われますが、弁護士にも税理士にも、生前対策の在り方を考えさせられる判決です。