月別アーカイブ: 2023年 10月

不動産の任意売却と弁護士の関与

1 債務整理と不動産の任意売却のすすめ

債務整理をする中で、不動産を売却する機会がよくあります。

自己破産するなら、基本的に破産する方名義の不動産は手放さなければならないですし、不動産を売ったお金を債務整理の返済原資にすることもあります。

債務整理をする中で不動産を売却する場合、任意売却と競売(けいばい)の2つの方法があります。

競売は、住宅ローン債権者などが裁判所に申し立てて強制的に不動産を売る手続きです。

債務整理する方は、競売であれば裁判所の職員等が建物内を見に来るときに立ち会うこと、売却終了までに引っ越すことだけすればよいので、手間は少ないです。

ただ、任意売却という自身で不動産業者を通じて売りに出した方がよいケースが多くあります。

2 任意売却が競売よりメリットがあるケース

一つは、不動産を売れば住宅ローンが完済できる可能性がある場合です。少しでも高く売れれば手元にお金が入ってきますので、債務整理の返済原資や弁護士費用に充

てたり、不足している生活費にあてるなど有効活用できます。

競売になれば、競売の費用(最低70万円程度)を負担しなければならず、手元に残るお金が減ります。

二つ目は、近隣住民に知られたくない場合です。

競売は、インターネットに情報がのるので、誰でもどの不動産が競売されているか見ることができます。これを見た不動産業者が自宅を訪ねてくることも多いです。

任意売却であれば、普通に引越しして自宅を買い替える人と同じように売買するので、近隣住民に債務整理していることを知られずに済みます。

三つ目は、スケジュールを調整したい場合です。競売は、債権者が申し立てるので、スケジュールを調整することは困難です。任意売却なら、自身で売りに出すので、引越のタイ

ミング等をある程度調整できるのです。

3 任意売却に弁護士が関与するメリット

任意売却は、ご自身で不動産業者を選んで最後まで進めることもできます。

ただ、債務整理の一環で任意売却する場合は、2つの理由から、弁護士が関与する方がよいです。

一つは、債権者や裁判所は、不動産をなぜその金額でその相手に売ったのか説明を求めてきます。売買の過程から債権者に説明する弁護士が関与すれば、債権者への説明も適切

になり、債権者との交渉の成果も上がりやすくなります。

二つ目は、不動産を売ってもローンが残るケースでは、弁護士が入るか任意売却に特化している不動産業者が交渉するのでなければ、そもそも不動産が売れません。

住宅ローン債権者にローンが残るのに担保を外してもらうには、独特の交渉が必要になりますから、不動産業者選びの段階から弁護士と不動産業者が連携する方が成果が出ます。

司法修習生の研修講師

1 司法修習生とは

先日、愛知県弁護士会という私も所属する弁護士の業会団体で、司法修習生向けの倒産実務研修の講師を務めました。

司法修習生は、司法試験に合格して、裁判官、検察官、弁護士になるための研修を受けている方です。

裁判所、検察庁、法律事務所(弁護士)に行って研修を受けるほか、弁護士会が主催する研修を受講することもあります。

私が講師を務めたのは、倒産実務委員会が行っている、破産や個人再生の事例をもとに少人数で議論をするバズセッションです。

2 弁護士になる前に倒産案件を学ぶ機会がない司法修習生も多い

弁護士になると、債務整理は法律相談でよく見かける案件です。

ただ、弁護士になる前は、債務整理などの倒産案件を学ぶ機会は意外と少ないです。

司法試験には、選択科目の中に倒産法(主に破産法と民事再生法)がありますが、必修科目ではないので、選んでいない人の方が多いです。

また、司法試験を受験する前の大学や法科大学院には、倒産法の授業が選択できたでしょうが、選択していない人も多いです。

3 自己破産の事例

従業員が1人いる個人事業主が自己破産する場合に、どの程度の期間がかかるか、裁判所に行く必要があるか、弁護士費用と裁判所に納める予納金をどうやって準備するかなど議

論しました。

従業員の給料が払えない場合は、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度が使えることなど、実務に直結する内容になっていました。

4 個人再生の事例

住宅ローンのある自宅を残したいサラリーマンが、個人再生する場合にいくら返済すればよいか、家計の状況をもとにどのように支出を減らして返済可能な状態にもっていくか

など議論しました。

住宅を残す個人再生では、住宅ローンはそのまま払い続けるので減額されず、他の借金が減額されるのですが、住宅ローンも減額の対象になるという司法修習生の回答が散見さ

れたのが印象的でした。

5 司法修習生を相手に話すことは、改めて私の弁護士としての仕事のスタンスが正しいかや、実務でよく行われていることの法律上の根拠を再確認する意味でも有意義でした。