日々思ったこと、皆様のお役にたてる情報などを書いていきたいと思います。
ようこそ、弁護士 岩橋 毅彦のブログへ
司法修習生と倒産実務修習の講師
1 司法修習生とは
司法修習生は、司法試験に合格して、弁護士、検察官、裁判官になるための研修を受けている人をいいます。
私も10年以上前ですが、司法修習生として弁護士事務所、裁判所、検察庁、司法研修所で研修を受けました。
私が修習生のときは給料が出ていましたが、一旦司法修習中の生活費が貸与される(返還義務がある)形になり、2025年現在は月額約15万円の給付金が出るそうです。
2 司法修習中に倒産事件を経験するとは限らない
司法修習生は、修習中に、刑事事件と一般的な民事裁判は経験します。
二回試験という、司法修習を終えた後の試験に合格しないと弁護士、裁判官、検察官になれないのですが、この試験科目に刑事事件と民事裁判があるからです。
また、検察庁では刑事事件しか取り扱っていませんので、刑事事件は修習生は誰もが複数見ることになります。
倒産、交通事故、相続等の案件は、修習に行った弁護士事務所や裁判所で行われてるのを見るケースもありますが、配属される弁護士事務所や裁判所によっては見ることができないケースもあります。
修習中に経験する機会がなければ、弁護士になってから研鑽を積むほかありません。
3 倒産実務修習
先日、愛知県弁護士会の倒産実務委員会が主催する倒産実務の修習で、他の講師と一緒に修習生のゼミの講師をする機会に恵まれました。
修習生や他の講師(弁護士)と一緒に、個人事業者の自己破産や、サラリーマンの個人再生の架空の案件を題材に、どのように実務で対応するか議論するものです。
今年でこの講師も4年目になりますが、実務の世界でも答えが出ていない悩ましい問題もあり、他の弁護士がどう対応しているかきいたり、実務にはついていないものの理論は
勉強している修習生の疑問点に回答しようとすると、自分はなぜこういう対応をしてきたのだろうかと振り返る良い機会になります。
自己破産は件数も多く、経験している修習生も多かったですが、個人再生は経験している修習生は少なかったです。
債務整理を数多く扱っている事務所に所属しているからこそ、日々経験できるものも多いと感じます。
連帯保証人の時効の援用
1 会社の借入の連帯保証人も時効の援用は可能である
最後の借入又は返済から5年以上たつと、時効にかかって借金を返さなくてよくなるというのが消滅時効です。
時効は、援用といって法律上正しく主張しなければ効果が発生しないので、弁護士に依頼して時効の援用をしようという方は少なくありません。
会社の取締役だった方が、会社の借入の連帯保証人であるケースはよくあります。
連帯保証人が時効の援用をすることは可能です。ただ、ご自身で借りた場合と違う独特の注意点があります。
2 主債務と保証債務のどちらの時効の援用も可能である
法律上、借入をしている会社を主債務者、会社の借金を主債務、代表者やご親族が連帯保証しているのを保証債務といいます。
連帯保証人は、主債務の時効の援用もできるし、保証債務の時効の援用もできるのが基本です。
これが生きるのは、たとえば連帯保証人が保証債務について承認すると、保証債務は承認してから5年間は時効にかかりません。
しかし、主債務はそれにかかわらず時効が進むので、最後の借入や返済から5年たてば、連帯保証人が主債務の時効を援用することで借金を払わなくて済むようになる可能性があ
ります。
3 主債務の時効がのびていると、保証債務の時効ものびているケースがある
たとえば主債務者の会社に対して裁判が起こされると、主債務だけでなく保証債務の時効ものびてしまいます(民法457条1項)。
主債務者が敗訴して判決が確定すると、時効の期間は判決確定から10年にのびます。この結果、保証債務の時効も判決確定から10年間にのびてしまいます。
また、主債務者が借金を承認すると、主債務だけでなく保証債務も承認から5年間は時効にかからなくなります
このように、連帯保証人からすると、あずかり知らないところで時効の期間がのびているケースもあるので、注意が必要です。
4 まとめ
保証人が時効の援用をするときは、主債務者に対するアクションによって時効が成立するか変わるケースも多いです。
保証債務の時効を援用するのか、主債務の時効を援用するのかも含めて、弁護士にご相談ください。
個人の通常民事再生
1 債務額が5000万円を超えると個人再生は選択できない
個人の方が自宅を残したり事業を継続して借金の負担を減らしたいとき、任意整理(分割払いの話し合い)で払い切れなれなければ個人再生を選択することが多いでしょう。
ただ、個人再生は、債務額が5000万円(計算方法は細かいので詳細は弁護士までおたずねください。)を超えると選択できません。
保証債務の額が大きい方や個人事業主の場合、5000万円を上回る負債があるケースもまれではありません。
この場合、個人再生ではなく通常民事再生という手続きで、裁判所を通じて借金を減額することを検討します。
2 通常民事再生と個人再生の違い
⑴ 借金の減る額
個人再生が負債額に応じて10~20%まで借金が減らないと決まっているのに対して、通常民事再生では清算価値(持っている財産の時価)まで減額するこ
とができます。たとえば負債額が6000万円で清算価値が300万円の場合、うまくいけば借金が300万円まで減額でき、5%しか借金を払わなくてよいことになります。
⑵ 裁判所に払う費用
通常民事再生は、監督委員や調査委員といった第三者的立場の弁護士が必ず選任される運用になっており、予納金(裁判所に支払う費用)は個人再生が2万5000円~
25万円程度なのに対し、通常民事再生は30万~100万程度と高額になっています。
⑶ 債権者の賛成の数え方
基本的に個人再生も通常民事再生も債権者の過半数の賛成が必要ですが、賛成とも反対とも意思を示さなかった場合、個人再生では賛成したものとみなしますが、通常民事再
生では反対したものとみなされます。
これにより、債権者が積極的に賛成に回ってくれないと通常民事再生は成功しません。
3 まとめ
近年通常民事再生の件数は、2⑵の予納金が高いこともあって減少傾向にあります。
その分通常民事再生の経験がある弁護士は少なくなり、個人再生より複雑であることから、専門性が求められる状態になっています。
負債額が5000万円を超えるが、事業を続けたり資産を残したい方は、通常民事再生に詳しい弁護士にご相談ください。
自己破産しても続けられる事業
1 法人代表者や個人事業主さんにとって、事業が続けられるかどうかは今後の生活の立て直しのために非常に重要です。
それにもかかわらず、破産法にも、弁護士や裁判官向けの本にも、事業を続けるための条件を明示しているものはありません。
相談する弁護士や、あたる裁判官の判断によっても分かれるケースがあるものですが、
2 法人の場合、事業を譲渡する必要がある
法人の事業は、少なくとも破産する法人のまま続けることはできません。
法人の資産は、破産手続では破産管財人が全部現金化し、全契約を解除しなければならず、何の収入も得られないからです。
そこで、別法人や知人に事業を譲渡して、代表者は譲受会社のもとで従業員として雇われたり、専属的な下請けとして仕事をもらう形式で事業を続けるケースもあります。
ただ、この場合も無償で譲渡するだけでは、破産管財人が否認することになりますので、適切な対価で法人の資産を買い取ってもらう必要があります。
法人の資産には、車や売掛金のような目に見えるもの以外に、借りている物件の敷金や機械類も含まれますので、一括で買い取ってくれる方が見つかるかが最初のポイントです。
3 個人事業の場合は、後払いや事業所・在庫の必要性による
個人事業者の場合、法人と異なり、全契約や全財産をなくすわけではありません。
ただ、破産手続で一部だけ優先して返済することが禁じられる点と、生活に必要最小限の資産しか残せない点がハードルになります。
たとえば、外注や従業員を雇うと、締日があって後日支払うことになるので、一時的に未払いの外注費等が発生しており、銀行の借金に優先して外注費を払うことが問題となるケ
ースがあります。
また、店舗がいる場合も、破産では明渡しして保証金を返してもらう必要があるし、在庫商品を抱えることもできないので、続けるのが難しい類型です。
逆に、自分が身一つで働けばよい形態は続けやすいです。元請に仕事に必要や機械や資材を用意してもらうことで仕事を続ける方もいらっしゃいます。
会社破産と未払賃金立替払制度
1 未払賃金立替払制度とは
会社が倒産したときに、従業員の給料が払われないまま終わることがあります。
従業員は、いきなり職を失い、給料ももらえないと直ちに生活に困ることになりかねません。そこで、独立行政法人労働者健康安全機構が、従業員の給料の一部を立て替えて
払う制度があります。詳細は、労働者健康機構のホームページで確認できますが(https://www.johas.go.jp/tabid/687/Default.aspx)、ここでは会社の破産に数多く関与した弁護士として、重要なポイントにしぼってお伝えします。
2 もらえるのは従業員の給料と退職金の80%が目安
公的な機関が税金を投じて支払うので、もらえるものは限られています。年齢や年収によって異なりますが、おおむね給料の80%までで、賞与は含まれません。
解雇予告手当や会社の経費の立替金は対象外となっており、取締役の役員報酬や外注費は対象外となっています。
退職金も、退職金規定等で定められた金額の80%まで対象になりますが、規定にない多額の退職金等は認められません。
3 破産管財人が証明するため、勤務実態を示す資料が必要
未払いの給料額は、会社破産の場合は破産管財人という裁判所が選ぶ弁護士が証明しなくてはなりません。
以前に勤務実態がない従業員の給料の立替払いを受けようとした詐欺事案などもあり、勤務時間や給料計算が正確か審査されます。
そこで、会社代表者は、タイムカード、賃金台帳、日報、雇用契約書等給料計算の方法と勤務実態を示す資料を破産を依頼する弁護士に提出しておく必要があります。
4 払われるまで最低2カ月かかる
立替払いを受けるには、未払給料額を計算して根拠資料を添付する、給与振込先や住所等を記載した立替払請求書を作成する、破産管財人が証明して労働者健康安全機構の審査
を受ける等、多くのステップがあります。
実際に管財人の審査と機構の審査が終わって払われるまでには、最低でも2カ月以上かかりますから、実際の給料日に払われるわけではありません。
5 未払賃金立替払制度には様々な要件や手続きが存在しますので、従業員の給料が払えない可能性がある会社代表者は、この制度に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
会社が破産する場合の経営者保証ガイドラインの特徴
1 経営者保証ガイドラインとは
以前は、会社の代表者は、会社が倒産するときには自己破産するケースが大半でした。会社の代表者は、会社の連帯保証人になっており、保証債務を支払わなければなりませんが、 完済できるだけの資力が残っていないケースが多いためです。
しかし、自己破産すると、信用情報が事故登録されて今後の融資は見込めなくなりますし、自宅やめぼしい資産は手放すことになるため、会社を廃業するハードルが高くなり、代表者の経済的な立ち直りも難しくするという問題がありました。
そこで、金融庁等が銀行や信用金庫などの連帯保証人をとる金融債権者に対して、代表者との話し合いで、一定の資産を残すことを認めつつ債務を免除する基準を設けたのが、経営者保証ガイドラインです。
2 自宅等の資産を残せるケースが多い
経営者保証ガイドラインでは、華美でない自宅を残すことを認めており、住宅ローンのある自宅では、住宅ローンを払い続けて自宅に住み続けることも認めています。
解約して99万円を超える生命保険や99万円以上の預貯金も、自己破産では基本的に残りませんが、経営者保証ガイドラインでは、法人の配当が増えた等一定の場合に残すこ
とを認めています。
3 減額の対象となる全債権者の同意が必要
ただ、経営者保証ガイドラインは、あくまで話し合いなので、1社でも減額に反対する金融機関があれば成立しないのが原則です。
粉飾決算や代表者個人の浪費がある場合、不適切なお金の流れがある場合等は、同意しない確率が高まります。
4 代表者個人の借入や、金融機関以外の保証債務は対象外
また、代表者個人が会社の運転資金に充てるためにカードローンを使ったり、クレジットカードで買い物した分は、保証債務ではないので、経営者保証ガイドラインの対象外で
す。
賃貸借契約の保証人や取引先の保証人になっているものも、ガイドラインは使えません。
これらは基本的に全額支払う必要があるので、金融機関以外の保証や代表者個人の借入が相当額ある場合は、ガイドラインを使うのをあきらめざるをえないのが通常です。
5 このように、経営者保証ガイドラインは使えないケースも多いですが、自宅や目ぼしい資産を残したい場合には、活用する価値があります。
会社の破産では、早期に破産したことで会社の配当が増えたことが、多くの個人資産を残すことにつながりますので、早めに弁護士に相談することが肝心です。
事業が続けられるかの見極め
1 事業が続けられるかを見極めるポイント
事業再生にたずさわる弁護士のもとには、何とか事業を続けたいが資金繰りが厳しいという代表者の方が毎月何人も相談に来ます。
事業が続けられるかは、事業形態や権利関係によるところもありますが、弁護士が簡単に見極めるポイントとして使っているものをお伝えします。
2 事業に不可欠な経費の支払いができるだけの現金預金があること
たとえば仕入をして売る業種では、仕入代が払えず仕入ができなければ、事業として成り立ちません。
従業員が店に立ってくれなければできない業種で、給料が払えないなら、事業を続けることはできません。
金融機関への返済額は、弁護士が入って調整することもできますが、事業に不可欠な経費の支払いができなければ、事業は続けられません。
そのため、給料や大きな仕入代の支払日に、支払いに必要なキャッシュ(現金預金)が残っている必要があります。
よく資金繰りの相談に行くと、会社の資金繰り表を作るよう言われるのは、入金が後で支払いが先だと、たとえ黒字でも支払いができなくて事業が続けられないケースがあるからです。
3 返済をしなければ黒字にもっていけるか
赤字であっても、現金預金が残っている限りは事業が続けられるといいます。
ただ、弁護士のところに事業再生の相談に来られる会社は、現金預金が少なくなっており、かつ赤字の会社が多いので、赤字が数カ月続くだけで現金預金がなくなりそうなケー
スが多いです。
すると、赤字から黒字になるプランを数カ月で実行しなければなりません。
どこまで黒字になればよいのかというと、最低限は返済を0と仮定した場合の黒字です。
事業を続ける以上、一旦返済を止めることはできても将来的に返済できる見込みがないと、事業を再生したり借金を減額してもらうことはできません。
4 投じられる個人資産や融資も検討
主には2と3が事業を続けられるかの簡単な目安になりますが、補助的には、現金預金以外に、現金化しやすそうな会社又は代表者個人の資産がないか、代表者個人も含めて融
資を受ける余地がないか検討します。
たとえば解約してお金が返ってくる保険、活用できていない車両の売却等で現金が手に入れば、仕入代や人件費に充てられます。
ただ、借りた直後に資金繰りができなくなって倒産すると、計画倒産とか返済する意思がないのに借りたとして詐欺罪に問われる可能性もありますので、融資は慎重に検討しま
しょう。詳細は事業再生に強い弁護士にご相談ください。
性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とする判決
1 重要判例解説
令和5年度重要判例解説が、令和6年5月20日発行されました。1年分の社会や法律家の実務に大きな影響を与えそうな裁判例をまとめた書籍で、例年4月10日頃までに発行されていたと思うのですが、今年から発行が5月になりました。弁護士実務を続けていくうえで、判例の変更を追いかけるのは必須の研鑽といえます。
私が注目したのは、性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とする判決(最高裁令和5年10月25日大法廷決定)です。
2 事案の概要
Xは、生物学的には男性だが、女性への性別取扱いの変更を申し立てたが、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」(性同一性障害者の性別の取扱いの
特例に関する法律第3条第1項4号)(以下、「本件規定」という。)に該当しないという理由で、申立てが認められなかった。
Xは、4号が憲法13条に違反するとして争った。
3 決定の要旨
本件規定が必要かつ合理的な制約を課すものとして、憲法13条に適合するか否かは、本件規定の目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容及び性質、具
体的な制約の態様及び程度等を較量して判断されるべきである。
本件規定の目的は、性別変更前の性別の生殖機能により子が生まれることで生ずる親子関係名地に関わる問題による混乱の防止、生物学的な性別に基づく男女の区別に対する急
激な変化を避ける必要等の配慮に基づく。
しかし、性同一性障害を有する者は社会全体から見れば少数である、1万人を超える者が審判を受けて性同一性障害を有する者への理解が広まりつつあること等から、制約の必
要性は低減している。
一方、医学的知見の進展に伴い、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手 術を受けることを甘受するか、又は性自任に従った法定上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになった。そのため、本件規定による制約の程度は重大である。
4 意見
最高裁は、平成31年1月23日の決定で、本件規定を憲法違反でないとしており、4年の間にどんな変化があって判断を180度変えたのか疑問に感じる点がある。
しかし、生殖腺の除去は、私見では昔の外国の刑罰を思い起こさせ、この判例がいうように、過酷であると思えるので、この判断は妥当であると考えられる。
遺産分割と破産
1 遺産が残っていれば自己破産でお金にかえなければならない可能性がある
亡くなったお父様の遺産が残っている方が自己破産する場合、遺産はどうなるでしょうか。ここでは、令和6年1月1日にお父様Aが亡くなり、ローンが残っていない自宅の不動産を所有していました。ご存命のお母様をB、破産する方をCとしてみます。
Aの財産は、何もしなければ、Bが2分の1、Cが2分の1ずつ共有していることになります。
Cが自己破産する場合、A名義の不動産の2分の1をお金にかえなければならないのが原則です。
2 破産申立前に遺産分割しても否認権行使の可能性がある
では、Cが自己破産を依頼する前に、Aの遺産を全部Bに相続させるという遺産分割協議をして、B名義で登記した場合はどうでしょうか。
この場合、不動産は形式的にはCの財産ではありません、
しかし、破産の直前に財産を他の人に全部タダであげてしまうのは、財産隠しの一種になり、否認権行使といって裁判所が選んだ破産管財人から取り返されて現金化される可能性もあります。
ただ、これには、遺産分割と単なる贈与を同視すべきではなく、遺産分割協議が民法906条が掲げる事情と無関係に行われ、遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる特段の事情がある場合にしか無症候否認の対象にならないという裁判例(東京高等裁判所平成27年11月9日判決)もあるところですから、なぜ自分の取り分がなく全部母名義にするのかについて合理的な説明がつくかどうかも重要になります。
3 相続放棄
破産申立てする弁護士としてこの問題を解決するには、Cが相続放棄ができないか検討するでしょう。
相続放棄は一身専属性があり、詐害行為にならないという最高裁判例があるからです。しかし、相続放棄は亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内に行わなければならない
のが原則なので、先の例では令和6年4月1日までしか行えない可能性があります。
4 個人再生
破産でなく個人再生の場合も同様の問題が生じますが、個人再生では実際に相続財産を換価するのでなく、清算価値に計上して返済すれば足ります。
つまり、返済額は増えるが、自宅をお金にかえる必要はないということです。そこで、返済能力があるなら、Cが自己破産でなく個人再生を選択することも検討すべきでしょう。
認知症等で判断能力が衰えている方の法的手続
1 認知症等で判断能力が衰えると、法的な手続きが一人でできなくなる
弁護士が相談にのる方には、認知症や脳梗塞等で判断能力が衰えたり、意思表示が十分にできない状態になってしまった方もいらっしゃいます。
法律の世界では、成人した方は、自分で自分の財産や権利を守ることができることを想定していますが、病気や高齢によって判断能力が衰えた場合に放っておくと、悪徳商法に引っ
かかって財産を失うなどの問題が生じかねません。
そこで、判断能力が衰えた場合は、その程度によって、家庭裁判所に申請して、成年後見人、保佐人、補助人という判断を助ける人を選任してもらう手続きがあります。
成年後見人、保佐人、補助人が選任された場合、複雑な法的手続きは一人ではできなくなり、成年後見人等が代理又は同意して行う必要がでてきます。
2 成年後見、保佐、補助の違い
成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力を「欠く」者とされ、一人ではほぼ判断できないことが前提になっています。
そのため、日用品購入等ごく日常のこと以外は、成年後見人が代理で行います。
保佐は、精神上の障害により事理を弁識する能力が「著しく不十分」である者とされ、訴訟、不動産の売買、借金など重要な行為は、保佐人が代理して行ったり、保佐人が同意
しなけば行えないことになります。
補助は、精神上の障害により事理を弁識する能力が「不十分」である者とされ、代理して行うのではなく、一部の行為に同意を与えたり取り消したりする権限を補助人に与えます。
3 成年後見人等には、ご親族が選ばれる場合と弁護士等の専門家が選ばれる場合がある
成年後見人、保佐人、補助人は、いずれも家庭裁判所に申請して選任してもらいますが、ご親族の方がなるか、弁護士等の専門家がなるかはケースバイケースです。
財産も少なく、ご親族間で誰が成年後見人をやるかで意見が一致している場合等は、配偶者かお子様がなるケースが多いです。
逆に、財産が多かったり、成年後見人をつけるかつけないか等親族間で争いがある場合は、弁護士等の専門家が選ばれがちです。
成年後見人等は、裁判所に財産の管理状況を定期的に報告する等やるべきことも多いので、専門家が成年後見人等に就任するなら、毎月数万円の費用が必要です。