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ようこそ、弁護士 岩橋 毅彦のブログへ
ツイッターの記事の削除請求の判決
弁護士法人心の弁護士の岩橋です。
毎年1回、令和〇年度重要判例解説という、1年間で影響の大きい裁判所の判決や決定についてまとめた書籍が発売されます。
今回は、最高裁令和4年6月24日判決(民集第76巻5号1170ページ)を紹介します。
1 事案の内容
原告Xがツイッターで自身の氏名を入力して検索すると、X自身のツイッターではなく、Xが訴訟提起の8年前に建造物侵入罪で罰金刑に処せられた事案で逮捕された報道記事をリンクで紹介する複数のツイート(本ツイートという。)が表示される状態にあった。
報道記事自体は削除されていたが、Xは事件当時会社員で、訴訟提起時は父が経営する事業を手伝っており、配偶者に逮捕の事実を伝えていなかった。
Xは、ツイッター社(Y)を被告として、本ツイートを削除するよう求めて訴訟提起した。
2 判決
以下の理由でXの請求を認め、Yに各ツイートを削除するよう命じました。
⑴ XがYに対し、人格権に基づき本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲とXが被る具体的被害の程度、Xの社会的地位や影響力、本件各ツイートがされたときの社会的状況とその後の変化など、Xの本件事実を公表されない利法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、Xの本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができる。
⑵ Xの逮捕から8年が経過し、刑の言渡しが効力を失っていること、報道記事が既に削除されていること、本件ツイートは逮捕当日に速報する目的で行われ、長い間閲覧される予定のものでない一方、検索結果により事実を知らないXと面識のある者に事実が伝達される可能性が小さいとは言えないこと、Xが公的立場にないこと等から、Xの本件事実を公表されない法的利益が優越する。
3 8年たっても一般人の逮捕の情報がインターネット上のトップに上がっているのは、平穏な生活を送るのを難しくしているでしょう。
その記事を今更読みたい人が大勢いるとは思いがたいので、妥当な価値判断ではないかと思えます。
自己破産でローンのある車を残すための買い取り
1 自己破産すると、ローンが残っている車は引き上げられるのが原則
自己破産しても時価20万円以下の車は残るとよく言われますが、ローンが残っている車の場合は、別に考える必要があります。
自己破産する場合、車のローンも含めてすべての債務の返済をやめなければなりません。
車のローンを約束どおり払わなければ、ローン会社に所有権が残っていることが多いので、ローン会社に車を引き上げられてしまうのが原則です。
この場合、時価が20万円以下であっても、車のローン会社が引き上げると決めれば返還しなければなりません。
2 ご親族が車のローンを完済することは可能
自己破産する場合に返済をやめなければならないのは、自己破産する本人です。
自己破産しない親族等が車のローンを援助することは法律上可能です。ご親族が一括で車のローンを払えば、ローン会社に車を引き上げられることはありません。
ローン会社が引き上げなければ、車の時価が20万円以下であれば、基本的に自己破産する方の名義のままでも手元に残せることになります。
3 車のローン残額と車の時価に注意が必要
自己破産する方の名義のままでは、親族がローンを完済しても、車の時価が20万円以上であれば、手元に残らないことになりかねません。
そこで、お金を払ってくれた親族に車を買い取ってもらったことにして、名義変更することが考えられます。
ただし、この方法は、車のローン残額が車の時価より多い場合でないと、破産法上問題があります。
たとえば、車のローン残額が100万円、車の時価が60万円なら、相場が60万円の車をご親族が100万円で買い取ったことになるので、問題ないと考えられます。
一方、車のローン残額が40万円で、車の時価が60万円なら、相場が60万円の車をご親族が40万円で買い取ったことになり、問題があります。
破産法は、時価より安くで財産を処分することを禁止しているので、破産管財人という裁判所が選ぶ弁護士に車を取り返されたり、借金がチャラにならない(免責不許可)の
リスクがあります。
4 まとめ
ローンが残っている車の買い取りには、法律上難しい問題がありますので、自己破産に詳しい弁護士に相談してから実行するようにしましょう。
資力がない相手から取り立てる難しさ
弁護士がよく受ける相談に、友人に貸したお金を返してもらえない、取引先に売掛金を払ってもらえないから回収してほしいというものがあります。
貸したお金や売掛金は、債権なので、弁護士の業界では、債権回収という分野になります。
債権回収は、大きく次の三段階に分かれますが、それぞれに難しさがあります。
1 払うよう催促する
弁護士が依頼を受ければ、まず、相手方に、100万円貸したけれど返してもらっていないから1週間以内に全額振り込んでくださいといった文書を送ることから始めます。
催促するだけで払ってくれれば、最も時間も費用もかからないからです。
この文面をどう工夫するかで、相手方が支払いに応じるかどうかが変わることもありますし、相手から連絡があった場合の対応も弁護士の力量が問われます。
2 裁判を起こして判決を取る
弁護士が催促しても払う気配がない相手には、裁判を起こして判決をとろうとします。
たとえば100万円の貸金返還請求をし、相手方が裁判所に出頭してこなければ、訴訟準備から考えても2ヶ月程度で判決が出ることが多いでしょう。
ただ、相手方が合理的な反論したり、証拠が不十分な点があると、半年以上かかることもあります。
3 財産を差し押さえる
判決を取った後は、相手の財産を差し押さえて強制的に取立てをします。
しかし、相手の情報がなければ、差押えをしても取立てできないことが珍しくありません。
相手の勤務先が分かっていれば給料の差押えが、事業者で取引先が分かっていれば売掛金の差押えが考えられます。
そういう情報がないと、預金の差押えや現金の差押えになりがちですが、基本的に銀行口座のある支店名まで当たらないと、差押えができません。
自宅や会社の事業所にある現金の差押えでは、取れる金額はわずかでしょう。
相手が不動産を持っている場合でも、既に銀行等の抵当権がついていて、売ってもお金がもらえないケースが多いです。
4 貸したお金が数十万円の場合、弁護士に依頼して2の裁判や3の差押えまでやると、費用倒れになることが多いでしょう。
このように、債権回収は、相手の財産や収入に関する情報が少ないと困難になりがちです。
普段から企業間取引では、取引先の情報を集めておくことの重要性が強調されるゆえんです。
自己破産と個人再生の違い
1 自己破産と個人再生はどちらも裁判所を通じてする借金の整理の手続き
弁護士として借金の整理の相談をお受けしていると、自己破産と個人再生は何が違うのかとよく聞かれます。
実際この2つは似ている点も多く、以前、依頼者さんでもどちらの手続きを依頼しているのか分からなくなっていた方もいらっしゃいました。
ここでは、自己破産と個人再生の違いを大きな点にしぼってお伝えします。
2 借金を返さなくてよくなるのが自己破産、借金を少しは返す必要があるのが個人再生
一番分かりやすい違いは、自己破産では借金は基本的に0になりますから、手続きを依頼して以降、借金の返済はしなくてよくなります。
一方個人再生は、借金は5分の1など大きく減るものの、0にはなりません。3年から5年かけて返済しなくてはなりません。
このため、個人再生の裁判所での手続きが終わっても、減った借金が払えなくなれば解決になりません。
借金と縁を切って早く楽になりたいと思えば自己破産がよいということになります。
3 持ち家が残らないのが自己破産、自宅が残るのが個人再生
もう一つ大きな点は、自己破産は目ぼしい財産がなくなってしまうことです。
持ち家は典型的ですし、時価20万円以上の車や生命保険がなくなることもあります。
一方の個人再生は、持ち家を住宅ローンを払い続けて残すためによく使われます。
車もローンを完済できていれば残りますし、解約すれば大きな金額が返る保険も残すことができます。
このため、残したい資産がある方が個人再生を選ぶ傾向にあります。
4 借金が増えた経緯が悪いとできないのが自己破産、借金が増えた経緯が悪くてもできるのが個人再生
自己破産は、借金を返済しない以上、借金が増えた経緯という過去の出来事が非常に重視されます。
ギャンブルや投資の失敗が主な原因で借金が増えた方は、自己破産しても免責されず、借金が残ったままになることがあります。
一方個人再生は、借金が増えた経緯よりも今後返済していけるかという将来の見込みが重視されます。
ギャンブルや投資の失敗が主な原因でも、今後ギャンブル等をせず、収入の範囲内で返済できれば手続きは認められます。
このため、借金が増えた経緯が悪い方は、個人再生を選ぶ傾向にあります。
事業譲渡と自己破産
1 事業譲渡と自己破産は、どちらを先行するかが重要
事業をしている方から、事業を第三者や親族に譲渡したうえで、自己破産で借金を0にしてやり直したいという要望はたくさんいただきます。
事業を別会社に引き継ぐ際は、会社分割の形態をとることもありますが、中小企業の自己破産とともにする場合は、スピーディーで安価にできる事業譲渡が最も多いです。
そこで、事業譲渡を中心に書きますが、事業譲渡が先か自己破産の申立てが先かによって、メリットデメリットや注意点が分かれます。
2 事業譲渡を先にする場合
メリットとして、①代表者の意思で条件を決められる②事業譲渡代金を自己破産の費用や給料の支払い等に充てやすい③スピーディーに実行できることがあります。
裁判所が関与する前の段階で事業譲渡するので、親族や知り合いの会社に譲って、代表者は雇われて働くこともあります。
また、自己破産申立費用の捻出が難しいケースでも、事業譲渡代金が入ってくることで、自己破産申立てが容易になることがあります。
デメリットとして、①破産管財人による否認権行使のリスクがあります。
たとえば他の候補者をつのって相見積もりをとれば500万円で譲渡できたはずなのに、親族の会社に100万円で譲渡してしまうと、事業譲渡の対価が安すぎることになります。
自己破産で裁判所が選ぶ破産管財人という弁護士が、否認権行使といって、事業譲渡を無効にしたり、お金を追加で払うよう求めることがあり、大きな混乱が生じる可能性があり
ます。
3 自己破産を先にする場合
メリットとして、①破産管財人が行うので価格や譲受先の妥当性が問題にならず、混乱が少ない点があります。
デメリットとして、①裁判所の破産開始決定まで時間がかかり、途中で事業が続けられないリスクがある②譲受先や金額が代表者の自由にならない
4 事業譲渡は、従業員の雇用が守られる、突然事業をやめることによる取引先への迷惑を避けられる等メリットが大きいです。
ただ、不適切に行うと、後に無効と判断されて関係者に余計迷惑がかかりますので、弁護士によく相談するようにしましょう。
相続放棄の順番等
1 相続放棄の順番
親が亡くなった場合に、親の借金を引き継がないように家庭裁判所に申請して行う手続きを相続放棄といいます。
たとえば、亡くなった方をA、奥様をB、子供をC、Aの父をD、母をE、兄をFとします。
Aさんが亡くなったとき、最初に相続人になるのは、奥様Bと子Cになります。
そこで、最初にBとCが相続放棄するか検討することになります。
相続放棄は、基本的には自分が相続人になってから3か月以内に行わなければなりません。
2 相続放棄は兄弟まで回る
相続放棄の注意点として、子Cが相続放棄すると、次は亡くなった方の親(先の例ではDとE)が、その次はAの兄弟のFが相続人になることです。
DとEが存命の場合は、DやEが相続放棄しない限り、Aの借金を引き継ぐことになってしまいます。
ただDやEは、子供のAが亡くなっている年ですから、先に亡くなっているケースが多いです。
すると、Fが相続人になり、Fが相続放棄しない限り、Aの借金を引き継ぐことになってしまいます。
このため、Cが相続放棄する際には、Fに連絡してあげることをお勧めしています。
そうでないと、Fは、自分が知らないうちにCが相続放棄したことで相続人になっており、3か月経過すると相続放棄できなくなってしまう可能性があります。
Fの相続放棄の期限は、本来はCが相続放棄したことを知ったときから3か月なのですが、Fがいつ知ったかは証明が難しいです。
そこで、CがFに連絡して、FはCの相続放棄が裁判所で認められてから3ヶ月以内に相続放棄するのが安全なのです。
もちろん、Fの相続放棄も弁護士が委任を受けて行うことができます。
3 全員が相続放棄した場合
Fまで相続放棄すると、Aの相続人はいないことになります。
この場合Aの債権者(Aに払ってほしい借金がある者)はどうするのかとよく質問を受けます。
債権者は、相続人がいなくなった場合は、相続財産管理人を選任するよう、家庭裁判所に申し立てることができます。
相続財産管理人は、主に弁護士が選ばれ、Aの財産があればお金にかえて、債権者に分けます。
従業員がいる会社の倒産に伴う手続き
1 従業員がいる会社の倒産は、様々な手続きが必要
従業員を雇っている会社が事業をやめる場合、従業員がいない場合と違って様々な手続きが必要になります。
ここでは、その一例と対応方法を紹介します。
2 離職票の発行
雇用保険に加入している従業員がいる場合、会社が事業をやめれば失業保険を受給できるケースが多いです。
失業保険を受給するためには、離職票の発行が必要です。
離職票は、会社破産の場合、過去6ヶ月間の賃金の額から失業保険の額を決めたり、会社都合か自己都合かによっていつから失業保険がもらえるかが異なるため、
正確に作成する必要があります。
会社であれ個人事業者であれ、従業員を解雇してから10日以内に発行するのが原則であり、社会保険労務士等の専門家に依頼することもあります。
3 社会保険の資格喪失
厚生年金や会社の健康保険に加入している従業員がいる場合、会社が事業をやめるならその社会保険から脱退する必要があります。
従業員は、国民年金や国民健康保険に加入するか、任意継続という従業員自身が掛け金を払うことで今までの資格を継続するかを選択することができます。
会社が社会保険事務所に資格の喪失届を出さないと、従業員は健康保険がない状態になり、医者にかかるにも全額負担となるおそれがあります。
4 住民税等の特別徴収の異動届
会社が従業員の給料から住民税を天引きしている場合、会社が事業をやめるなら源泉徴収しなくなる分、従業員個人で住民税を支払う必要が生じます。
住民税を天引きすることを特別徴収といい、これを従業員個人で支払う普通徴収に切りかえるための届出なので、特別徴収の異動届と呼んでいます。
役所は、会社が倒産したことを自動的に知るわけではないので、従業員が居住する自治体に、住民税の特別徴収の異動届を出す必要があります。
5 源泉徴収票の発行
従業員の源泉徴収をしていた場合、源泉徴収票を発行する必要があります。
従業員は、次の勤務先の給料と合わせて年末調整して税金の還付を受けたりするのに使います。
顧問の税理士にお願いすることも多いですが、会社破産で税理士報酬が未払いの方等は、社長自身で作成するか、別途専門家に依頼することもあります。
6 このように従業員がいる会社が倒産する場合、様々な手続きを急いで進める必要があります。
会社破産は、税理士や社会保険労務士とも連携がとれる弁護士に依頼すると、従業員関係の手続きも円滑に進みやすいでしょう。
未払給料立替払制度の注意点
会社が破産する際に、従業員の給料を払いきれないことは珍しくありません。
このとき、独立行政法人労働者健康福祉機構の立替払制度を利用することが多いです。給料が払われず生活に困る従業員さんにとって、役に立つ制度であること
は間違いありませんが、使えないケースもありますので、注意が必要です。
1 支払いまで最低3ヶ月程度かかる
立替払制度は、①未払給料額に関する資料を集める②未払給料額の計算を終
えて申込書類を従業員宛てに送付する②破産管財人が内容を検討して証明する
③立替機構が内容を検討して支払う と何度も資料と書類のやりとりがありま
す。
どんなに早くても、本来の給料日より3ヶ月程度遅れてしか支払いは受けら
れません。
2 事業開始1年未満の廃業や解雇から6ヶ月経過後の破産申立てでは使えない
立替払の要件として、事業が1年以上継続していることや、解雇から6ヶ月
以内に破産申立てをしたこと等があります。
これら事業者側の要件によって、立替払制度が使えないケースもあります。
3 解雇予告手当や賞与は対象外
立替払制度の対象になるのは、定期賃金と退職金です。
突然解雇されたことで、平均賃金の30日分の支払を受ける権利がある解雇
予告手当や、定期できなく臨時に支給されるだけの賞与は、立替払いの対象で
はありません。
4 金額は最高8割まで
立替払制度では、最高で未払い金額の8割までしか払われません。
また、30歳未満は110万円まで、30歳以上45歳未満は220万円ま
で等、金額による上限もあります。
5 役員、親族、下請けは使えないケースが多い
立替払制度は、あくまで生活に困る従業員の保障ですから、代表者や取締役
は使えないのが原則です。
親族の従業員も、従業員と同様の勤務実態が証明できれば使える可能性はあ
りますが、認められないことも多いです。
下請業者や外注は、従業員ではないので、対象外です。
6 事業をやめるとしても、従業員に迷惑をかけたくないと考える代表者さんは
大勢いらっしゃいます。
立替払制度は安心材料の1つになりますが、やはり給料が払いきれな
くなる前に、事業をやめる決断をすることが大切です。
立替払制度の詳細は、弁護士までおたずねください。
司法修習生の指導
1 司法修習生とは
私が所属する愛知県弁護士会の倒産実務委員会で、司法修習生向けに自己破産と個人再生の事例に基づく指導を行う機会がありました。
司法修習生とは、弁護士、裁判官、検察官になるための研修生のことです。
司法試験を受験して合格した人を対象に、約1年間、弁護士、裁判官、検察官の実務を見学することを通じて、実際に弁護士、裁判官、検察官になったときに第一線で活躍
できるようにするための制度です。
当日は、仮設事例をもとに、司法修習生が事前に回答案を作成し、私ともう1人の弁護士で回答を検討しました。
一般の方にも役に立つよう、少し事例をかえて解説します。
2 自己破産の案件
建築業を営む個人事業者で、財産として預金10万円、ローンのない時価60万円の車、解約返戻金80万円の保険、売掛金50万円などがあります。
この方が自己破産するとき、車が残るかどうかや、手続きの費用をどうやって用意するか等検討しました。
車は、必ず残るとは限りませんが、自由財産拡張といって、生活にどの程度必要かや今後の収入の見込み等を丁寧に主張することで、残せる可能性が十分あると思われます。
また、手続きの費用は、保険を解約したり、売掛金を回収することで、用立てるのが通常でしょう。
これは、自己破産で残せる財産は原則99万円までであり、車60万円と保険80万円の両方が残ることはないと見込めますから、保険は解約して費用に充てる方が有効な使い
方であるからです。
3 個人再生の案件
サラリーマンが、A社から100万円、B社から100万円、C社から200万円、D社から200万円、E社から住宅ローン2000万円を借り入れしているとします。
財産として時価1500万円の自宅、預貯金10万円、時価50万円の車があるとき、個人再生をするとどこまで返済額が減るか等検討しました。
個人再生では、住宅ローンは約束どおり返済し、うまくいけば他の借金が5分の1まで減るので、A社からD社の600万円が120万円まで減ります。
返済期間は、3年から5年ですから、住宅ローン以外の毎月の返済額は、2万円~3万4000円程度になります。
不動産競売と破産者の相続人の不動産買い受け
1 事案の概要
住宅ローンが払えなかったり、自宅を事業性の借入金の担保に入れている場合、破産に伴って不動産が競売されることがよくあります。
競売のルールを定める民事執行法では、不動産競売で、債務者(お金を借りて払えなかった本人)が競売不動産の買い受けの申出をすることは禁止しています(民事執行法68条、188条)。
ここで、競売手続中に債務者が破産の免責決定を受けた後に亡くなり、相続人が買い受けの申出をすることが許されるか争われた最高裁の判決があります(最高裁令和3年6月21日第一小法廷判決)。
2 最高裁は、以下の理由で、相続人が買い受けることを認めました。
⑴ 民事執行法が債務者自身の買い受けを認めない理由は、債務者は不動産の買い受けより債務全額の完済を優先すべきである、債務者が不動産を買い受けても債務を完済しない限り同一の債権者がもう一度競売申立てをする可能性もあること等にある。
⑵ 免責許可決定を受けた場合、相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず、不動産の買い受けより債務全額の完済を優先すべきとは言えない。
⑶ 相続人が買い受けの申出をする必要性はある一方、もう一度同一の債権について競売申立てが行われることはない。
3 評価
最高裁判所は、民事執行法68条の「債務者」に破産者の相続人は当たらないという解釈をしたことになります。
相続人が、同居の配偶者か子であるなら、たまたま債務者が亡くならなければ、問題なく不動産を買い受けて自宅に住み続けられたはずです。
それを、債務者の地位を相続してしまったために不動産の買い受けができなくなって自宅に住み続けられないのは酷に思えます。
破産で免責されているわけですから、そもそも債務者(お金を払う義務があるもの)といえるのかも疑問ですので、この最高裁の判決は妥当に思えます。
実際、自己破産のご相談に来られる方で、ご親族に自宅を買い取ってもらって住み続けることを希望する方は大勢いらっしゃいます。
不動産競売でなくても任意売却で親族に自宅を買い取ってもらう方法も考えられますので、お気軽に弁護士までおたずねください。