一般社団法人の設立のメリット

営利を目的とする法人には,株式会社や合同会社がありますが,営利を主目的としない法人を設立する場合は,一般社団法人がよく使われます。

一般社団法人を設立する目的は様々ですが,たとえば,法人格のないスポーツ団体や文化団体が,信用を高めるためや不動産を取得したい場合等があります。

法人格のない団体は,構成員の誰かの名義で不動産の登記をしたり,預金口座を作るのが一般的ですが,その構成員の債権者から,団体のための不動産や預金を差し押さえられたりする危険があります。

また,その構成員が脱退したり亡くなった場合は,不動産や預金を,別の構成員の名義にかえる必要が生じます。

そこで,一般社団法人を設立し,法人名義で預金口座を作ったり,不動産を取得すれば,構成員個人の財産と混同されたり,構成員が脱退した場合にも名義変更等をせずとも,永続的に活動を続けていくことができます。

一般社団法人のメリットとして,他の法人と比べて,法人化の手続きや法人設立後の運営の手間が少ないことがあげられます。

たとえば,NPO法人は,設立時に所轄官庁の認証を受けたり,監事を置かなければなりませんが,一般社団法人では,設立時に社員が2名いて,設立後は,社員総会と理事1人がいれば足りるので,夫婦2人で法人を設立することも可能です。

また,一般社団法人でも,一定の要件を満たせば,収益事業から生じた所得のみを法人税の課税対象とする非営利型法人とすることができ,会費収入等を非課税とすることができます。

詳細は,弁護士や税理士等におたずねください。

 

岐阜地方裁判所の自己破産の運用変更

岐阜地方裁判所が,平成30年8月1日から,自己破産の運用を変更する旨の連絡がありました。

自己破産には,同時廃止と管財事件という大きく2つの分類があります。管財事件は,さらに少額予納管財事件と通常管財事件の2種類に分かれます。

少額予納管財事件(名古屋や岐阜の弁護士は,「S管」と呼んでいます。)と通常管財事件の大きな違いは,裁判所に納める予納金の額です。

S管は約22万円ですが,通常管財事件では約42万円です。

この違いは,管財事件であれば裁判所が選任する管財人という弁護士の業務量の違いであり,通常管財事件になるものは,管財人の業務量が多い事件ということになります。

今回の運用の変更は,S管でやれる事件を限定し,通常管財事件になる事件を多くする方向に働くものです。

たとえば,S管でやれるのは,弁護士を代理人に立てたもの(自分で申し立てたり司法書士に依頼した場合は満たさない)で,預金や保険の額もわずかな場合に限定されました。

また,これまで明確にされていなかった予納金を分割で納付することができる場合も,限定的にしか認めないことを明確にしました。

たとえば,家計の状況等からみて真にやむを得ない(節約の余地がない),財産を処分(車の売却や保険の解約等)して用立てることもできない場合等とされています。

これらは,自己破産のハードルを高くし,資料集めや節約を精一杯行うことを求めるものともとれ,自己破産は最後の手段であり,任意整理や個人再生で可能な限り解決することを求める裁判所のメッセージともとれます。

 

 

 

親の借金と相続放棄

債務整理で相談される方の中には,亡くなった親や配偶者の借金を相続してしまった方がいらっしゃいます。

たとえば,父親が事業をしていて1000万円の借金の返済を終えないまま亡くなったとします。

相談者さんには,お母さんと妹が1人がご存命とします。

何もしなければ,1000万円の借金は,お母様が500万円,相談者さんと妹さんで250万円づつ相続されます。

そこで,相続放棄という,父親の財産も借金も引き継がない手続きをすることがあります。

相続放棄は,家庭裁判所に住民票や戸籍等の必要な資料を整えて申請しますが,原則として亡くなってから3ヶ月以内に行わなければなりません。

期限を過ぎても,借金や財産を認識できなかった場合等で例外的に認められる可能性もありますが,大きく不利になります。

3ヶ月以内に財産や借金の状態が把握できずに判断に迷う場合は,熟慮期間の伸長という,期限を延ばしてもらう手続きを家庭裁判所にすることもあります。

また,相続放棄は,父親の財産を一部受け取ったり処分してしまうと認められなくなるので,父親の不動産の名義を変えたり,父親の車を売ったりしないよう

注意が必要です。

 

相続放棄のもう一つの特徴として,お母さん,相談者,妹さんと相続放棄すれば終わりではなく,父親にご兄弟がいれば,父親の兄弟(おじ・おば)に借金の請求が行くことがあり,おじ・おばまで相続放棄しないと借金問題が解決できないこともある点に注意が必要です。

詳細は,弁護士までおたずねください。

自宅の任意売却と競売

自己破産等の債務整理を行う際に,住宅ローンのある自宅等の不動産を手放さなければならないケースがあります。

ここでは,最もよくある住宅ローンが残っている自宅を想定して,不動産を手放す方法やメリット・デメリットを考えてみましょう。

住宅ローンが残っている自宅を手放す方法は,大きく分けると,任意売却と競売の2つです。

競売は,住宅ローンの債権者等が,裁判所に申し立てて強制的に自宅を売る手続きです。

任意売却は,自宅の所有者が自らの意思で自宅を売却する手続きです。

任意売却の方が競売より高値で売れるのが通常ですので,残った住宅ローンを少しずつ払うのであれば,任意売却のメリットは大きいといえます。

住宅ローンのある自宅を処分しても,売値より住宅ローンの残額の方が高ければ,住宅ローンが残ってしまうからです。

任意売却には,引越協力金等の名目で若干のお金がもらえたり,近隣住民に住宅ローンの支払いができなくなったことを知られにくいというメリットもあります。

しかし,自己破産する場合を中心に,競売にもメリットはあります。

任意売却では,不動産業者とのやりとりや自宅の中を見に来る購入希望者等に中を見せるのに立ち会ったり,不要な家財を処分する等,一定の労力がかかりますが,競売の方が労力は少ないでしょう。

また,任意売却で人気のある物件では,2カ月程度でも買い手が決まって退去しなければならないケースもありますが,競売では,申し立てられてから6ヶ月程度は自宅に居住していられることが多いでしょう。

債務整理に精通している弁護士は,任意売却を希望する方には不動産業者を紹介できることが多く,任意売却にかかる期間や労力は,不動産業者によって異なる可能性もあるので,任意売却か競売かお悩みの方は,お気軽に弁護士にご相談ください。

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相続税の節税目的の養子縁組

毎年4月に,前年の重要な裁判例をまとめた重要判例解説という本が出版されます。

私が弁護士になってから毎年読んでいる本の一つです。

その中で,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決が,専ら相続税の節税目的の養子縁組について判示しています。

事案は,次のとおりです。

平成24年4月,Aは,税理士から,長男Bの子C(Aの孫)をAの養子にすると,相続税の節税効果があると説明を受け,平成24年5月,養子縁組届を提出しました。その後,AとBが不仲になり,Aが離縁届を提出したものの,離縁(養子・養親の関係を解消すること)の無効確認判決が確定しました。平成25年,Aが死亡し,相続人Xが,AとCの養子縁組は,縁組をする意思を欠くと主張して,無効確認訴訟を提起しました。

最高裁判所は,相続税の節税のために養子縁組をすることは,遺産の基礎控除額を相続人の数に応じて算定する相続税法の規定によって発生する節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするもので,相続税の節税目的と縁組をする意思とは併存しうるものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1項にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

そして,前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たらない。と判示しました。

この判例は,専ら相続税の節税のために養子にしたことを立証しただけでは養子縁組が無効とはいえないことを示していますが,「前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と限定しており,事実関係が違えば,節税目的の養子縁組が無効になる余地を残しているように読めます。詳細な事実関係は関係者でなければ分かりませんが,先に離縁の無効確認判決が確定しているので,今回の養子縁組の無効確認訴訟は,離縁の無効確認と同じ点が争われ,蒸し返しの側面が強かったので,養子縁組を有効する方に判断が傾いたのかもしれません。

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刑事事件の責任能力

刑事事件では,被告人の責任能力がないと判断されれば,無罪になったり,刑罰が軽くなることがあります。

無罪になるほど責任能力がないのを心身喪失(しんしんそうしつ),責任能力に乏しく刑が軽くなるのを心神耗弱(しんしんこうじゃく)といいます。

その趣旨は,被告人にはどうすることもできない原因により精神障害をわずらって犯行に及んでしまったとき,被告人を法的に非難することはできないからなどと説明されています。

責任能力があるかないかを検討するには,精神医学的な側面と法的な側面の両方から検討する必要があります。

異常な犯罪の異常さが病的なものかどうか,病的なものであるとして,その精神障害が犯行にどの程度の影響を与えたかという判断が精神医学的な側面です。

そして,被告人を法的に非難することができるかという法的な側面があります。

心身喪失や心神耗弱と判断されるのは,統合失調症と診断されているケースが多いので,弁護人としては,統合失調症の方を中心に精神の障害によって犯罪を引き起こしてしまった

と考えられる場合には,心神喪失や心神耗弱で無罪になったり減刑したりできないか検討することになります。

どのような場合に心身喪失や心神耗弱となるのかは,最終的には裁判所が,精神鑑定の結果,裁判所での立ち居振る舞いや事件記録に表れている供述等様々な事情を考慮して判断しますので,

限界事例の判断は難しいものがあります。

弁護士法人心では,刑事事件も取り扱っております。

自然災害債務整理ガイドライン

自然災害債務整理ガイドラインの研修に行ってきました。

このガイドラインは,自然災害が原因で債務が払えない状態になるおそれがある方が,弁護士等の支援専門家を通じて金融機関等と話し合いをし,債務の一部を免除してもらうものです。

一般に,自己破産する場合,財産は最大99万円までしか残すことができず,持ち家等の主だった財産は処分されます。

また,信用情報に事故情報が登録され,原則として新たな借入ができない期間ができます。

これに対し,ガイドラインを使う場合のメリットとして,現金預金で最大500万円等,自己破産する場合より多くの財産を残すことができます。

また,信用情報に事故情報が登録されない点でもメリットがあります。

ガイドラインを使う場合の注意点として,あくまで話合いですので,債務の免除を求める全ての債権者が同意してくれる必要があります。

また,震災後の年収や,既存の住宅ローンの年間返済額と将来の住居費負担額によっては,利用できない場合もあります。

本日の研修では,熊本地震で被災した弁護士と金融機関の担当の方が,熊本地震のときに実際に行われた対応等について教えてくださいました。

私の事務所がある名古屋市も,遠くないうちに南海トラフ地震に見舞われると言われていますので,平時から研鑽を積んでおくことが大切です。

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名古屋地裁破産同時廃止基準の変更

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

今年は,ご相談に来られる方に,今まで以上に経験を生かした具体的なアドバイスをさしあげられるように精進してまいります。

さて,平成30年1月から,名古屋の破産事件の運用について,変更がありました。

自己破産は,同時廃止と管財事件と大きく2つに分かれています。

同時廃止は,財産がほとんどないことが確実で,債務が増えた経緯に問題が少ない方を対象にした,比較的簡易なものです。

管財事件は,財産が多少なりとも残っている可能性があるか,債務が増えた経緯に問題がある方を対象に,管財人という第三者的な弁護士が選任される複雑なものです。

同時廃止であれば,裁判所に納めるお金は1万5000円程度ですが,管財事件になれば,事業をされていない方でも20~40万円程度を裁判所に納めなければなりません。

ですから,ほとんどの方が同時廃止で終わることを希望されます。

平成30年1月から変更があるのは,この同時廃止と管財事件のどちらになるかを区別する基準です。

今まで,自己破産する方が持っている財産の総額に関する規制をなくすかわりに,財産の種類ごとに決められている財産額の基準を厳しくする内容で,損をする方も得をする方も

いらっしゃいます。

私は,今回の基準の変更の前に倒産実務委員会という集まりの中で意見を述べる機会もありましたので,今回の変更について個人的な意見もありますが,決まった以上は,新しい運用に従って

何とか同時廃止になるように,工夫をするつもりです。

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実践フォーラム破産実務

「実践フォーラム破産実務」という本が出版されました。

自己破産に関する本は,数多く出版されていますが,この本の特徴は,本のほとんどが座談会形式になっていることです。

座談会形式のメリットとして,破産事件に精通している弁護士が,他の本に残しにくいきわどい処理をしたケースの一端に触れることができる点があります。

また,破産事件をやっている弁護士が,そう頻繁には出会わないが,たまに出会う問題点についても,ある弁護士の経験談として語られているところもあって,

結論が出ているわけではないところをどのように処理するかの方針を知ることができます。

たとえば,法人の破産事件で,従業員の給料は,金融機関からの借入等に優先してもらうことができますが,代表者が法人に払ってもらっていない役員報酬は,金融機関からの借入等と

同様にもらえないのが原則です。これを,廃業直前の最後の役員報酬は,資産状況によっては生活給的な範囲での支給は許容される場合があると述べている方もいらっしゃり,法人の

代表者さんが立ち直る上でプラスになる考え方です。

また,法人のお金で代表者個人の破産事件の費用を用立てることは,原則として法人のお金を私的に流用したことになるので禁じられていますが,これも,最後の役員報酬から用立てたものと

説明できる場合があるという記述もあり,参考になります。

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裁判員裁判における量刑評議の在り方について

裁判員裁判は,法律家でない皆さんも参加される可能性がある刑事事件の裁判です。

裁判所が,選挙人名簿を参考に裁判員候補者を呼び出し,一定の質問等をへて実際に裁判員に選ばれる方が決まります。

裁判員は,プロの裁判官とともに,犯罪を犯した疑いがある被告人を無罪にするか有罪にするか,有罪であれば,どれくらいの刑罰を科すかを決めます。

このどれくらいの刑罰を科すかを,「量刑」といい,裁判官と裁判員が協議して量刑を決めることを量刑の評議といいます。

大学教授や裁判官が,この裁判員裁判の量刑の評議をどのように行うべきかをまとめたのが,「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」という本です。

裁判員裁判の弁護を務める弁護士が必ず読む本といっても過言ではありません。

この本によると,以前の刑事裁判は,被告人に前科がないとか,被告人を監督してくれる親族がいるといった,犯罪自体とは直接関係ない事情も総花的に主張されていました。

また,刑法の殺人罪には,保険金殺人,介護疲れを理由とする殺人,怨恨を理由とする殺人など,社会一般的には,非難の程度が違うものが一緒くたに規定されています。

そこで,刑事裁判は,被告人が行った行為にふさわしい刑罰を決める手続きであることから,まずは,被告人の行為の社会的類型(保険金殺人,介護疲れを理由とする殺人等)を決め,裁判員の方に,量刑検索ソフトを使って,量刑の大体の幅を示します。

その他の事情は,それを微修正する要素として取り扱うように評議を行うという方法を勧めています。

たしかに,刑事裁判が初めての方には,大体の幅を示してもらうことには大きな意味があると思いますが,その社会的類型の決め方が本当に正しいのか,量刑検索ソフトにかける条件が大ざっぱすぎて,本当に今回の件と似た類型のものが選ばれているのか疑問に思われるケースもあるでしょう。

量刑検索ソフトで出てくる他の件と今回の件で,本当に違いがないのか,違いがあるならどのように量刑に反映させるのがよいか,検討する必要があります。

また,弁護士としては,前科がないとか,監督してくれる家族がいるという事情が,なぜ量刑を軽くする事情になるのかを,一般の方に理解していただけるように説明する必要があります。

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