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経営者保証ガイドラインのメリット・デメリット

1 経営者保証ガイドラインは、社長が自己破産せずに会社の保証債務を整理する方法

会社が破産する場合、会社の代表者(社長)も自己破産するケースが多いです。

会社の代表者は、会社の借入の連帯保証人になっているのが通常です。

会社が破産するときには、会社代表者は、役員報酬をもらうこともできなくなり、かつ、会社が約束どおり借金を返済しない以上、連帯保証人として会社の借入を一括請求されます。

負債額も少なくとも数千万円、多ければ億になりますから、個人資産で払いきれる代表者はめったにいません。その結果、代表者も自己破産を選択することが多いのです。

しかし、事業に失敗しただけで社長がいつも自己破産するのは酷であるということで、平成25年、金融庁等が旗振り役になって、金融機関と連帯保証人が会社の借入について

話し合いをして、保証債務を免除する基準を作りました。

これが経営者保証ガイドラインです。(参照:https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/

2 経営者保証ガイドラインのメリットは、自己破産より多くの資産が残り、新たな借入も可能な状態が続くこと

自己破産すると、最大でも99万円までしか資産は残りませんし、持ち家もなくなってしまいます。

経営者保証ガイドラインでは、会社や代表者の状況によりますが、持ち家が残ることも多く、預金や保険も300万円以上残るケースもあります。

また、自己破産すると、信用情報に事故情報がのることで、代表者は新たな借入ができなくなり、クレジットカードも使えないようになります。

一方、経営者保証ガイドラインでは、話し合いがまとまれば信用情報は傷つかず、クレジットカードを使い続けられたり、新たにローンが組める状態になります。

3 経営者保証ガイドラインのデメリットは、基本的に全債権者の賛成が必要で、金融機関の保証債務以外は対象にならないこと

ただ、経営者保証ガイドラインは、話し合いなので、全債権者が賛成しなければならず、一社でも免除してくれない債権者がいれば、話し合いに時間と費用をかけた後に自己破産

せざるをえないケースもあります。

また、金融機関の保証債務以外は対象にできず、賃料の保証債務や、社長個人で借入しているものは、基本的に元金をまけてもらえることはありません。

そのため、個人資産が少ない方や、今後借入して事業をする予定がない方は、最初から自己破産を選択した方がよいケースも多いです。

4 まとめ

会社の保証債務にお悩みの方は、代表者だけでなく第三者も、経営者保証ガイドラインを選択できます。

ただ、何が最適かは、財産・借金の状況や今後のライフプラン等を含めて弁護士とよく相談して決めるようにしましょう。

 会社破産に関する弁護士法人心のサイトはこちら

法律事務職員能力検定試験

法律事務所には、弁護士以外にパラリーガルと呼ばれる、弁護士の法律事務を補助する職員が所属しています。

心グループには、100名近いパラリーガルが所属し、書類の作成や依頼者さんとのやりとりをしていますが、そんなパラリーガルの能力を認定するのが、法律事務職員能力認定試験です。

2021年11月20日に第13回の試験がありましたが、普段から一緒に仕事をしているパラリーガルたちの合格を祈るばかりです。

令和2年不動産競売事件の分析

「事業再生と債権管理」という業界誌に、令和2年の不動産競売に関するデータがのっていました。

令和2年は新型コロナウイルスの影響もあって競売を新たに受け付けた件数は全国で1万7705件で、令和元年の2万1204件より減少しています。

しかし、不動産競売物件の売却率は全国で79.2%と令和元年の78.5%より増加しており、買値も売却基準価格の145.4%と低くありません。

申立てから終局までの期間は全国平均9.4ヶ月となっており、例年より1ヶ月弱長い程度にとどまっています。

不動産競売は、債務整理の依頼者ならいつまでに自宅を出ていかなければならないかや任意売却をこころみるかどうかの指標になり、弁護士として気になるところです。

期限を過ぎた方の相続放棄

1 相続放棄の期限

相続放棄は、亡くなった方の財産も借金も引き継がないことを家庭裁判所に申述する(資料等を揃えて提出する)手続きです。

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に申述しなければならないのが原則です(民法915条1項)。

これは、通常、子や配偶者であれば亡くなってから3ヶ月、親や兄弟であれば先 の順位の子等が相続放棄してから3ヶ月以内という意味です。

2 期限を過ぎてもやむを得ない理由があれば認められることもある

3ヶ月を過ぎると絶対に相続放棄できないのかというと、知らなかったことにやむをえない理由があれば認められるケースもあります。

やむをえない理由には、最終的に相続を知るに至った経緯や資産・負債の状況を把握する可能性があったか等が考慮されます。

一般の方が家庭裁判所に主張すると不利な事情も言ってしまったり、有利な事情も十分主張できない可能性がありますので、相続放棄の経験豊富な弁護士にご相談ください。

名古屋で相続放棄のご相談をお考えの方はこちら

事業を続けるための個人再生

個人事業をされている方が、事業を続けるために自己破産でなく個人再生を選択するケースがよくあります。

自己破産では、在庫商品を持つことや従業員を雇うこと、外注を使うこと、事業所を借り続けることが難しく、事業を続けるのに支障があるケースが多いためです。

個人再生は、将来の事業収入から少しずつ返済することを想定しており、基本的にこれらのいずれも可能です。

ただ、事業収支が不安定なことから、今後継続して返済していくことができないと判断されたり、事業用の資産の価値も見積もって返済額を決める必要がある等、サラリーマンの個人再

生に比べると難しい点も多いです。

多額の借金を抱えているが事業を続けていきたい方は、事業者の個人再生の経験豊富な弁護士にご相談ください。

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個人再生は残したい財産がある場合にお勧め

1 個人再生でなく自己破産を勧める弁護士には、経験が少ないことに原因がある可能性も

個人再生は、裁判所に申請して借金を減額してもらい、3年から5年で返済する手続きです。

自己破産は、多くの弁護士が経験しますが、個人再生は、1件もやったことがない弁護士も珍しくありません。

その理由は、令和2年度司法統計によると、令和2年度の自己破産の件数は7万8104件あるのに対して、個人再生は6557件と10倍以上の差がありますし、

専門的にやっている弁護士でなければ、返済額の計算や返済能力があることの示し方に難しい点もあるからでしょう。

自分の経験があって見通しが立てやすいからと安易に自己破産を勧める弁護士もいないとは限りませんので、注意が必要です。

2 個人再生は、資産があっても基本的に債権者にとられず、分割で支払えばよい

個人再生のメリットは、資産があっても基本的に債権者にとられないことにあります。

自己破産ではなくなってしまうはずの財産を残して借金の整理をすることができることも多いので、よくある個人再生の利用例を見てみましょう。

3 解約返戻金のある生命保険や学資保険がある場合

解約すると50万円の返戻金がある学資保険に入っている方が自己破産した場合、基本的にこの保険は解約して債権者への返済に充てられることになります。

個人再生では、他に目ぼしい財産がなければ、返済額が増えることもなく、学資保険を残して借金を減らすことができます。

4 住宅ローンのある自宅がある場合

住宅ローンが残っている自宅は、住宅ローンを約束どおり払うことで自宅を残す個人再生ができます。

自己破産の場合は、そもそも住宅ローンだけ返済を続けることができず、不動産も残せないことから、基本的に自宅に住み続けることはできません。

5 実家の不動産に持ち分がある場合

実家の不動産について、お母様が2分の1、相談者さんが2分の1など不動産の持ち分を有している方もいらっしゃいます。

自己破産では、この持ち分をお金に変える必要があるため、お母様が相談者さんの持ち分をお金を出して買い取ったり一緒に売る必要が出てきます。

一方、個人再生では、実家の不動産の時価が500万円なら、250万円を財産的価値として計上し、その他の財産も合わせた額を3年から5年分割で返済すれば

足ります。つまり、お母様に迷惑をかけることはありません。

6 このように、個人再生は残したい財産がある場合に幅広く使えますので、積極的に検討することをお勧めします。

事業をされている方の自己破産と事業所の明渡し

1 事業をされている方が自己破産する場合は、基本的に事業所の明渡しが必要

個人事業や法人を経営されている方が自己破産する場合で、事業所を賃借しているか自ら所有している場合は、基本的に明け渡す必要があります。

自己破産する場合は、事業所を自ら所有していても、破産手続きでお金にかえることになりますから、事業所が残りません。

また、事業所を賃借している場合も、差し入れている保証金・敷金を現金化しなければならないことや、継続的に賃料が発生すると債務が増えることになりかねないため、

自己破産する際は事業所を明け渡す必要があります。

2 事業所の明渡しを破産管財人に任せることもできるが、費用が高くなりがち

事業をされている方が自己破産する場合は、基本的に破産管財人が裁判所から選任されます。

破産管財人は、破産する方の資産をお金にかえて、債権者に平等に分配する仕事をする弁護士です。

事業所の明渡しは、保証金・敷金を現金化するためにも必要で、破産管財人の業務の範囲内ですから、破産管財人に任せることもできます。

ただ、その場合は、裁判所に納める費用(予納金)が高くなりがちで、多くの裁判所で最低50万円求められます。

賃貸人との交渉に労力を要しますし、原状回復するのにお金がかかる可能性があること等が理由です。

3 事業所の明渡しを自ら行う場合は、中にあるものの処分に注意

そこで、破産管財人が選ばれる前の段階、破産申立てをする前に代表者が自ら賃貸人と話し合って明渡しすることもあります。

この方が、裁判所に納める費用は最低なら20万円で済みますし、賃貸人に破産を知られずに済むケースもあります。

ただ、事業所には、機械類や在庫商品等、お金にかわる可能性があるものが残っているケースも多く、うかつに捨ててしまうと、お金にかえる努力をせずに債権者に損害を与え

たとして、損害賠償を求められたり、代表者が免責されない(借金の支払義務が残る)可能性もあります。

そのため、2社以上の見積もりをとって無価値であることが証明できてから捨てる等、手順を考える必要があります。

また、原状回復に多額のお金や時間がかかる場合、賃貸人と合意ができないと、結局明渡しができないこともあります。

4 事業所の明渡しを自力でするか破産管財人に任せるかは、ケースバイケースで判断が難しいところがあります。

詳しくは、自己破産に詳しい弁護士までおたずねください。

 

18歳・20歳が近い少年の少年事件

満20歳未満の者が、窃盗、傷害その他の刑事事件を起こした場合は、少年法という法律で、成人の刑事罰とは異なる取り扱いを受けることをご存じの方もいらっしゃると思います。

2021年5月21日、少年法が改正され、18歳・19歳の少年がこれまでと異なる取り扱いをされるようになった点についてお伝えします。

1 成人と同様に処罰の対象になる事件の範囲が拡大された

少年法では、14歳以上20歳未満は、性別を問わず少年としています。

少年事件は、家庭裁判所に送致され、家庭裁判所で少年審判が行われるのが原則です。

成人の刑事事件と異なり、少年は更生の可能性が高いことから、処罰を与えるのではなく、更生の役に立つ処遇をしようと家庭裁判所が審判をしています。

しかし、重大な被害がある事件を起こした少年が処罰を受けないのは社会の理解が得られにくい等として、16歳以上の少年で、故意に人を死傷させた者は、原則逆送といっ

て、家庭裁判所から検察に戻され、刑事罰を受けさせることになっていました。

これでは範囲が狭いということで、今回の改正では、18歳・19歳の少年は、短期が1年以上の懲役または禁錮以上の罪(強盗や強制性交罪等)も原則逆送の対象になりまし

た。

2 一部実名報道が可能になった

これまで、少年の今後の更生の妨げになる点等から、少年法で実名報道や個人を特定できる写真の掲載を禁止していました。

今回の改正では、被害者が実名報道等されることもある一方で、成人に近い年齢で重大犯罪を犯した者の実名報道がされないことに社会の理解が得られない等として、

18・19歳の少年については、起訴された後は実名報道を可能としました。

3 18歳と20歳が近い時期に事件を起こした少年の取り扱いは注意が必要

子の法改正は、2022年4月から施行されます。

一般的に、いつの時点で18歳や20歳であった者を対象としているかといえば、審判や起訴の時点を基準に考えます。

事件を起こしてから警察の捜査が始まるまでも時間が空くこともありますし、警察の捜査から審判までも時間が空くので、事件を起こしたときに19歳10カ月の者は、審判時

には20歳になっている可能性があり、そもそも少年事件でなく、成人の刑事事件として取り扱われる可能性があります。

少年の弁護をする弁護士としては、18歳と20歳に近い少年の場合は、審判や起訴の時期によって大きく取り扱いが変わる可能性があるので、有利不利を考えながら活動する

に必要があります。

令和3年4月の所有者不明土地の解消に向けた法改正

令和3年4月21日、所有者不明土地の解消に向けた法改正が成立し、4月28日に交付されました。

土地の名義人が亡くなっている場合、相続が何代も続いて何十人という相続人が土地を共有していたり、行方不明になっている方もいて、対応に困ることが多々ありました。

今回の改正は幅広い内容を含んでいますが、その中でも影響が大きいと思われるものを3つご紹介します。

1 隣地の使用関係(新民法209条、213条の2,233条)

隣の土地を使用できる場合について、これまでは、建物の築造・修繕や、排水のために水を通す等を限定的に記載し、他の場合に使用できるか明らかでありませんでした。

今回、隣地の使用を、境界標の調査や測量、越境した木の枝の切除、ライフライン設備の設置等にも認めることを明記しました。

ただ、越境した木の枝の切除は、隣の木の所有者に対して切るよう求めたが相当の期間内に切除しないか、木の所有者が不明のとき及び急迫の事情があるとき等限定があるので

注意が必要です。

2 共有の土地の変更、管理行為の容易化

これまで共有物の変更は、共有者全員の同意が必要とされていましたが、形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除いて共有持分の価格の過半数により決定することとさ

れました(民法251条1項)。

また、共有持分の価格の過半数で、共有財産の管理者を選任する制度(民法252条の2)や、共有者が行方不明の場合等に、裁判所が行方不明の共有者に代わり共有物の変

更や管理の許可をする制度(民法251条2項)が新設されました。

土地の共有者が行方不明等の場合にもできる行為が広がり、裁判所の許可を得る仕組みも整備されました。

3 不動産登記法上の登記の義務付け

亡くなった人名義の土地は、相続人が共有していることになりますが、相続人名義で登記しなくても制裁はありませんでした。

今回、補導さんの所有権の登記名義人が死亡し、不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったこと及び当該所有権を取得したことを知った日から3年以内

に所有権移転登記をしなければならず、正当な理由なく怠った場合は、10万円以下の過料に処されることになりました。

また、所有権の登記名義人が氏名や住所を変更した場合も、変更日から2年以内に変更登記をしなければならず、正当な理由なく怠った場合は、5万円以下の過料に処せられる

ことになりました。

4 今回の改正で、行方不明の隣地所有者や共有者がいてもできる行為が広がったわけですが、相続や住所変更の登記が義務付けられる等、一見すると法的トラブルと関係がない方も知らなければペナルティーが科せられるおそれがある重要なものです。詳細は弁護士までおたずねください。

離婚後における婚姻費用分担請求

毎年4月中旬頃に、前年の重要判例解説という本が出版されます。弁護士である以上、判例(裁判所が実際に出した判決や決定)の移り変わりをフォローすることは重要ですので、毎年買うようにしています。

最新の重要判例解説にのっていた最高裁令和2年1月23日第一小法廷決定を紹介します。

申立人妻Xと相手方夫Yは、平成13年に婚姻して2人の子をもうけましたが、平成26年頃から別居状態になりました。

Yは平成30年1月頃まで月額15万円の婚姻費用を支払っていましたが、その後支払わず、平成30年7月に離婚が成立しました。

離婚が成立した後も、婚姻費用の分担請求が認められるかが争いになりました。

最高裁は昭和40年6月30日決定で、婚姻費用は婚姻中の夫婦の生活費を分担するものなので、離婚すれば婚姻費用の分担請求権が消滅するとしています。

最高裁昭和53年11月14日判決は、離婚後は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与を求めることができるとしていました。

そうすると、離婚後は婚姻費用ではなく財産分与でしか請求できないともとれます。

しかし、本決定は、婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するわけではない、夫婦の資産・収入その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が具体的な分担額を決定することは可能である等述べて、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、婚姻費用分担請求権は消滅しないと判示しました。

今回の最高裁決定により、婚姻費用分担審判中に離婚が成立した場合に、別途財産分与の請求をする必要はなく、婚姻費用分担審判の中で婚姻費用の請求をすることで、離婚成立前の婚姻費用の支払いを求めることができることが明らかになりました。

ただ、そもそも離婚前に婚姻費用を請求しておらず、離婚後に初めて離婚前の婚姻費用の分担請求ができるかは、最高裁は明らかにしていません。

離婚に伴って生活費の負担を求める場合の詳細な方法や手続きは、弁護士までおたずねください。